YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT

京都•与謝野×丹後ちりめん/絹織物

丹後編Vol.6

「和装小物」をひらく

20202月、「和装小物」をキーワードに2軒の機屋を訪れた。半衿・帯揚げ・風呂敷などを主に生産している機屋は、丹後産地の中でも与謝野町岩滝地域に多い。

無地ちりめんの可能性をひらく 梅徳機業場

建屋に囲まれた空間は、昭和のまま時間が止まっているようだった。瓦屋根の間にのぞく曇り空、植木鉢の植物、流し台…。「この屋敷に移ってきたのは大正9年と聞いています。今年でちょうど100年ですね」。梅徳機業場5代目となる梅田幸輔さんは、ひらく織メンバーの一人だ。大学と会社員時代を京都市内で過ごしたが、父親の呼びかけに応じて4年前に帰郷した。

「創業したのはお祖父さんのお祖父さんです。詳しい年は分からないですが、明治から大正にかけてなので創業120年はたっていると思います」。幸輔さんが説明をしてくれる後ろで、90歳を越す祖父が電話に応じている。祖母も最近まで現役の織り手として機場に立っていたという。

梅徳機業場5代目 梅田幸輔さん

梅徳機業場の製品は無地ちりめんの和装小物で、そのうち帯揚げが8割を占める。4代目幸夫さんが機屋の仕事に入った頃には紋織物を主流とし、着尺や襦袢を手がけていた。約30年前に無地ちりめんの生産へと切り替えた理由は「部品など交換が必要になった時期と、無地製品の需要が伸びていたことが重なって」だったと、幸夫さんが機場で教えてくれた。天井が高く、かつてジャカードが並んでいた風景が目に浮かぶ。現在は自社工場に16台の織機を持ち、撚糸からの一貫生産を行っている。「糸さえ仕入れたら、ちりめんまでたどり着く。それがうちの強みだと思います」。ひらく織の活動で全国の機場を見て回るうち、幸輔さんは自社の特徴を見出していた。

テーブルに広げられた無地ちりめんのバリエーションに目を奪われる。毛羽立ちのある絹紡糸(けんぼうし)と普通の生糸を使って格子模様を織り上げた生地、「うずら」と呼ばれる特徴的なシボが浮かび上がった生地、片撚り強撚糸を使った「きぬち」と呼ばれる生地はよろけたような縞状の畝があり、経糸にも強撚糸を使った「シアサッカー」という生地は浴用タオルとして開発されたということだった。

次々と並べられるサンプルは、全てが「無地ちりめん」のタペット織機で織られている。「自社に撚糸と整経の技術があれば、無地ちりめんの織機でも工夫次第でこれだけの製品が展開できるんです」。無地ちりめんは右撚り強撚糸と左撚り強撚糸を2越ずつ打ち込む「古代ちりめん」を基本とし、そこから様々なバリエーションが生み出されてきた。梅徳機業場の製品は「無地」という名称に隠れた、底なしの可能性を示していた。

無地ちりめんの製造工程は、生糸を目的の太さにする「合糸」に始まり、糸を柔らかくする「緯炊き」、撚糸機にかけるための管に巻く「下管巻き」、「撚糸」、強撚をかけた糸をさらに他の糸と合わせる工程へと続く。長い時間と無数の手仕事を追いかけた「丹後編Vol.2 着尺をひらく」も併せてご一読いただきたい。

 

「今年は整経の技術を身に付けたいと思っています。現在は腕のいい整経士さんに支えてもらっていますが、引退された後に自社整経を続けられるように。見てもらった通り、うちの製品バリエーションには自社整経が欠かせないんです」。特に強撚糸を使った整経はテンションを一定に保つのが難しく、経継ぎも晴れた日にしか行わないそうだ。撚糸機は4台あり、1台は三輪式八丁撚糸機。そして3台は岩滝地域にある加藤製作所が作ったもので、製造から約40年が経つ。ちなみに整経機は80年選手だという。別棟にはリング式合撚糸機が設置されている。どれも機場とともに時間を重ねてきた設備だった。

 

梅徳機業場といえば無地ちりめん。そう思っていた機場には、ジャカード装置が並ぶ時代があった。5代目の幸輔さんは、どんな機音を響かせていくのだろうか。

風呂敷で気持ちを結ぶ 髙美機業場

丹後ちりめんといえば撚糸。「博物館でしか目にしたことがなかったです」と驚かれることもある湿式の木製八丁撚糸機が現役で稼働している機屋の一つが、髙美機業場だ。大きな回転車が目を引く。江戸時代に発案された糸に撚りをかける機械で、一本の紐で個々の紡錘と回転車が結ばれた構造になっている。

滴り落ちる水と、溶け出したセリシンが床を濡らしていた。「うちの糸は太いので、1メートルに1500~2000回転ほどです。着尺用の糸を作っているところに比べて、水の量も少ないですね」。昭和24年創業の髙美機業場、3代目を継ぐ高岡徹さんが教えてくれた。丹後の強撚糸は1メートルに3000~4000回転という種類もあり、一口に強撚糸と言ってもいろんなタイプがあるのだ。それは製品の多彩さにもつながっている。

髙美機業場3代目 高岡徹さん

徹さんはひらく織実行委員会委員長も務めている。大学を辞め、家業へ入り16年。織物業界だけではなく、飲食業、杜氏、その他あらゆるカテゴリの事業者とつながりをもち、大小さまざまな地域イベントの企画に関わってきた。

 

髙美機業場の製品は帯揚げ、半襟、風呂敷、を主力としている。素材は主に正絹とレーヨンを扱う。「そういえば、子どもの頃には紋紙を目にしていたなと。うちにも製品の変遷があったということを再認識しました」。機場には津田駒工業と北陸機械工業製のタペット式シャットル織機が8台、この日は若い女性従業員がひとりで織機の世話をしていた。

機場の奥には撚糸場があり、2階には糸繰りと合糸をする部屋、糸を乾かす部屋がある。糊付け機やイタリー撚糸機も備え、自社整経をしていた頃の整経機もあった。天気がよければ物干し場に綛の糸を、中庭にブショウに巻かれた糸を乾かしている風景が見られる。

徹さんは2013年にオリジナル風呂敷の製造販売を開始した。「和装の白生地の製造だけでは取引先がピンポイントになってしまって広げられないと感じていました。これまでにつながりのないところ、たとえば居酒屋などでもパッと広げてみせることができる、ユニークな営業できるツールになればと思って」。卸先との取引を大切にしながら、取引先とバッティングしないものを作るという考えがいつしか芽生えていた。風呂敷の第一弾は「めで鯛続き」とタイトルがつけられた一作。自身の長男誕生の内祝いとして制作した。独特の絵柄は手ぬぐい作家鴨川志野さんによるもの。

「自社製品の風呂敷に力を入れていくために、機場の体制を整えている段階です」。少し前まで中高年層の従業員が多かったが、この数年で家族4名、ベテラン従業員1名、若手従業員1名という構成に移り変わったそうだ。

 

最後、これまで結婚式や開業祝などでオーダーされた風呂敷を広げてもらった。そこには、注文した人のキャラクター、地域の産品、名物、風景が一枚の布に凝縮されていた。「人生の節目に、気持ちを結ぶ風呂敷を贈りたい」と語る徹さん。機屋であり、そして機屋にとらわれない活動をしている職人にこれからも注目したい。

 

記事 原田美帆 / 写真 黒田光力

髙美機業場

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