YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT

東京・産地の学校/つくるのいえ

東京でひらく織

東京でひらく織

2018年新春、「東京でひらく織」と題したイベントを開いた。丹後は伝統ある和装反物や世界のメゾンが採用する広幅織物も扱う産地。しかし、若手デザイナーやクリエイターにその情報が届いていないという現状がある。彼らに丹後の魅力を届けたいという思いから始まり、株式会社糸編の宮浦晋哉さんのご協力によって実現した企画。織物はこんなに面白くて可能性を秘めていることを、産地が素晴らしい場所ということを、「産地の学校」メンバー(受講生)に届けに向かった。

株式会社糸編は国内のものづくりの発展と創出を目指し、繊維産地の訪問取材を軸に事業を展開している企業。2012年、宮浦さんが「Secoir Gallery」としてキュレーション事業を創業し、2017年に株式会社糸編を設立。同年「産地の学校」という週末の学校を開校。繊維企業との取り組み方、テキスタイルについての基礎知識を学ぶ「スタディコース」と、それに続くインプットとアウトプットを重ねていく「ラボ」によって構成されている。繊維産地、アパレル産業に携わる人材の育成、ネットワーク作り、繊維産地における課題の明確化、人材のマッチング、自走可能なプロジェクト支援を目的に設立された。受講生は繊維商社やアパレル企業に勤める人、デザイナー、職人、学生など多岐にわたる。

スライドを交えたトークの内容は、「丹後産地の魅力 絹の美しさ、ちりめんの技術、特殊な経糸を使った織物、工芸ともいえる螺鈿織や古代布の藤布」「ひらく織 機屋が目指すもの」「移住と制作 産地で生きる」の三つ。テキスタイルに熱い思いを持った参加者の目に、東京から遠く離れた地で生み出される宝物が写り込み、一瞬で引き込まれていく。続いて紹介したのは「ひらく織」立ち上げのエピソード。2015年までさかのぼり、外部クリエイターとの協働プロジェクトを経て、職人自らが企画を作り上げたこと。最後は移住者としての体験談と、一から学んだ織物設計について。会場のセコリ荘には、私が制作したコットンのカーテン、タペストリー、カバーにストール、おくるみなどを展示。

丹後産地が織り続けてきたからこそ設備があり、技術が継承され、生まれた織物。私の相棒の織機は津田駒レピアERとカヤバのダイレクトジャカード。幅120cmの生地に対して1368本の針が一釜(ひとかま)になった機拵え(はたごしらえ)。これはつまり、生地幅いっぱいに柄が描ける、リピート制限なしにデザインが可能ということ。この説明に対して、数々の産地を訪れている宮浦さんも国内に数台しか知らない仕様だということが分かって、ますます皆の興味が高まる。柔らかいコットンに触れながら、その思いはすでに丹後にまで繋がっていた。「東京でひらく織」の締めくくりは、そのまま「産地の学校・丹後編」のキックオフになった。新春に蒔いた種は、どんな花を咲かせるのだろう。

つくるのいえ

今回の東京滞在のもうひとつの目的地は八王子市「つくるのいえ」。ひらく織の活動を通じてフェイブスック上でつながっていた奥田染工場の奥田博伸さんを訪ねた。彼が2017年に立ち上げた「つくるのいえ」は織物の町、八王子に開かれたものづくりとものづくりを結ぶ場所。産地とデザイナーが出会い新たなプロダクトや事業が生まれることを目指している。家業である染工場を継いだ奥田さんは、八王子産地の衰退にともなう地域内の仕事減少、同業者の減少などに違和感を覚え、若いデザイナーとともに他産地の視察を始めた。2012年のテキスタイルマルシェを皮切りに大城戸織布などユニークな機屋など各地域でものづくりを担う多くの人との出会いが、「つくるのいえ」構想に繋がっている。丹後も視察に来たことがあり、柴田織物の柴田さんがアテンドされたそう。また、文化服装学院や多摩美術大学、武蔵野美術大学などでも教壇に立ち、学生やデザイナーとの親交も広く、ワークステイトライアル参加者関さんの先生でもある。奥田さんは私のよく知る丹後の機屋2人とシロクマを足して2で割ったような、とにかくパワフルな方だった。

最初に染工場の設備を見学。布を置いただけでピタッと吸い付いたように固定される捺染台(なっせんだい:シルクスクリーンプリントなどに使用される作業台のこと)、シルクスクリーン技術が生まれた時代から使われている捺染台、素材や技法にあわせて開発された捺染台。蒸し器に洗いの設備、染料が並ぶ棚。この後、多彩なサンプルを拝見して驚く。恥ずかしいことに、染工場の仕事というものを全く理解していなかった。シルクスクリーンや草木染めに始まり、裏表の泊押しや塩縮(塩やアクリル溶液を用いて生地を縮ませて表情を出す技法)、発泡するインクをつかった印刷、鹿の角を粉砕した粉をつかった印刷、もはやこれが染めなのか、印刷と言っていいのか、特殊加工としか言えないような技術が詰め込まれたサンプルを次々に見せてくれる。先代の時から印刷を超えたものを追求してきた染工場だったという。

「何より色材(しきざい)が大事。色材、つまり染料によって色の見え方が違う。色素には必ず粒子の大きさがあって、意識してみるとわかる。例えば藍染や鉄粉は粒子が大きく、大きいと手前に見えてくる。小さいと奥に沈む。色素の大きさによって色の見え方が違うから、ギャップをつければカッコいい染めができる。それに、黒い染料は大量に色素が多いので素材を硬くしていく。色を、色以外の印象で見てほしい。みんな気にはしないけど本当は感覚的に分かっているはず。意識していないだけで、自分の感覚を育てるとその差は見えてくる。一般的に多いのは粒子の細かい優しい印象の染め。それにちょっとした気遣いをしてあげられるか。微妙な領域で気を遣っていいものに仕上げるのは織物でも一緒でしょう」。ほんの数分で、私の染めに対する認識が変わった。

場所を「つくるのいえ」に移して話は続く。染工場から歩いて数分の距離に現れた古民家。天井の高い部屋が続き、見事な欄間や書院造りの床の間が残されていた。一部はコンクリート仕上げのギャラリーのような空間にリベーションされていたが、水屋やお風呂は昔のままで、これからも継続的に手を入れていくそうだ。

2017年12月に開催されたプレオープンイベントでは岡山にスポットを当て、布産地と東京のデザイナー、八王子の作り手がこの場所で交わり、様々な雑貨や服、ワークショップ、トークイベントが生まれた。キッチンカーも登場し、かなりの人数で賑わったという。「産地とデザイナーとの出会いの場になる”ハブ”として機能する場所にしたい」。自身も職人であり、産地でのものづくりの課題に直面し、正面から闘ってきた奥田さんの言葉はまっすぐに響いた。

記事・撮影 原田美帆

株式会社糸編

株式会社奥田染工場

つくるのいえ

つづる織-もうひとつの産地ルポ

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