YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT

大阪・泉州×和泉木綿/注染/寝具

大阪・泉州編Vol.1

「室町時代から700年余り続く織物産地」。

一体どれほどの人が、どこにある産地か思い浮かべられるだろう。ものづくりの歴史を知らない世代が増えている。手ぬぐい、タオル、寝具。毎日の暮らしを支える織物は、大阪府南部に広がる泉州地域で今日も製造されている。

 

古くは明や朝鮮からの輸入品であった木綿は高級品で、農民は麻などの植物から作られた古代布を身につけていた。やがて室町時代に綿花の栽培技術が三河、和泉、河内などに広まり綿織物産地を形成。江戸時代に「農民の着物は木綿とすべし」と幕府から伝令が出されると、庶民の衣服素材として全国に普及する。この頃には「和泉木綿」は毛足の長い綿花から細い糸を紡いだ良質な織物として全国に知られた。明治時代には堺に日本初の官営紡績工場が設立され、衣料品、日用品から軍需品まで様々な織物を生み出す。昭和50年を過ぎて輸入品との価格競争が始まり、1200社あった織物事業者は現在64社にまで減少。織物業と共にある晒(さら)し工場、染め工場、整理加工場も数社という状況にある。

伝えるべきことを見つめて 平山繊維株式会社

鼓膜を押し込み肌を震わせる音圧。小幅シャットル織機25台が並ぶ工場に入ってものの10分、ひらく織メンバーが音をあげた。毎日それぞれの機場に立ち、機音を子守唄にして育った彼らが耐えきれなかった現場。

「住宅街にあるから、ALC(エーエルシー)*1の厚い壁を建てて防音対策したら音がこもってしまって。幹線道路の方面だけ窓を開けて逃しているんやけど」。平山繊維株式会社 平山康夫さんはあっけらかんとして言う。三代目を務める康夫さんは弟の貴夫さんと2人で機場を回し、自社商品を企画し、地域ブランド「和泉木綿」の普及活動にも取り組んでいる。

 

機音にも仕事の幅広さにも圧倒されるメンバーを前に、淡々と話を続ける。「泉州の機屋は、基本的にもう世代交代ができないと思っている。職人は平均62歳くらいで、かつては“3チャン”で5〜60台を回していた。お父ちゃん、お母ちゃん、お祖父ちゃんってね。家族3人集まって15時間織機を動かして、やっとサラリーマン1人分の稼ぎ」。立ち止まる暇もなく25台の織機の世話をして、同時に検反して、管巻きして。1日に約1,000メートル織り上げても「このくらいしないと採算が合わない」。丹後でも賃金の低さが大きな課題となっているが、一反あたりの単価を聞き一同閉口するしかなかった。

平山繊維株式会社 平山康夫さん

丹後と同じシャットル織機だけれど、その仕様は大きく異なる。和泉木綿は平織が多く、糸数が少ないため織機にセットされるタペット*2装置の枠は2枚、畔(あぜ)*もとられていない。短い間丁(けんちょう)*にはドロッパー*5が付いている。丹後は紋織物を得意とするため、織機の上部に大きなジャカード装置*6が載っていることが多い。間丁は長く、糸の開口がなるべく小さく済むように、ジャカード装置に負荷がかからないよう設計されている。

 

素材や製品によって最適な形に調整される織機。ひらく織メンバーは自社との違い、丹後との違いの発見に目を見開かされていた。家内制工業をベースとする産業にあって、他社の仕様や工夫を直接見られる機会はそう無いからだ。針金のようなパーツがクルクルと円を描いて、耳の糸を本体部分に引っ張ってくる装置や、デニム生地にも見られる「セルビッチ」*7仕様のためのビームに巻かれていない糸など、丹後では見ることのない装置たち。かつては管巻き*8屋に外注するほど量産され、九州からも女工が集まるほどの規模を誇った産地。

平山繊維株式会社から歩いて数分にある外注先の染色工場にも案内してもらった。住宅街に工場が点在する風景も、丹後のそれとはまるで違う。新興住宅に住まう人たちはかつての機音を知らない。小学校の校歌にある「機を織る」という歌詞はもう要らないと声が出ているそうだ。どこを切り取っても、どこの地域とも変わらない住宅と量販店と国道の風景が広がる日本の都市部。それぞれの土地にあった歴史はどこへ消えてしまったのだろう。

 

康夫さんは続ける。「うちの規模は泉州で台数的に一番小さいだろうけど、売上はそんなに負けていない」。白生地を織って問屋に納めるかたちでは成り立たなくなると、先染め糸を使ったストールや国産紡績糸にこだわった織物、染色作家 平石はるかさんと組んだ衣料など自社製品を開発。インターネット通販や道の駅での販売にも力を入れている。さらには地場産業の伝承のため小学生に綿花から手紡ぎ糸を作る体験イベントを行う。

「現場がなくなっても、会社が残せるようにいろんなことをしている。織機が5台になっても、それで生き残れるならその方がいい」。何のために織機を回すのか、どうやって機を回し続けるのか。日常の仕事の向こう側を見据える力こそが、産地の歴史を繋いでいく。

*1 軽量気泡コンクリートのこと。断熱、耐火、防音に優れた建材

*2 カムとタペットによって綜絖を上下運動させる装置

*3 経糸を交互に上と下に振り分けた状態のこと。これがないと織物を織ることはできない

*4ビームから経糸を操作する綜絖(そうこう)までの部分、またその機構

*5 経糸1本ずつに金属性のピンをさした装置。経糸が切れるとピンが下にさがり、本体に電気が流れて停止信号を出す仕組み

*6 経糸を1本ずつ上下させる装置。複雑な柄を織ることが出来る

*7 生地の織端がほつれないようにつけられた耳の部分のこと

*8 シャトル織機で使用する、杼の内部にセットする緯糸を巻いたもの

にじみが超える境界線 株式会社ナカニ

「注染(ちゅうせん)」。それは、何十枚もの型染を一度に行う伝統の染色技法。

生地の上に型紙を置き、切り取られた部分に木へらで糊を置く。その上から蛇腹状に生地を重ねて、また糊を置く。ずれないように何十枚も重ねる。

「ドヒン」と呼ぶじょうろ状の容れ物から染料を注ぐ。生地の上に広がった染料はすぐに網台の下にある減圧ポンプで吸引されて、表も裏も一度に染め抜く。色を染め分ける時には土手を作って、注いで染めるから「注染」と名がついた。

7メートルほどの高さに丸太を並べた乾燥室に「伊達干し」された手ぬぐい。その中に東京駅のシルエットにイルミネーションが浮かび上がる柄があった。漂う光は優しくにじんでいる。

株式会社ナカニが展開する自社ブランド「にじゆら」の手ぬぐいは、注染の世界で失敗だとされてきた「にじみ」を表現方法として確立。現在では大阪、京都、神戸、東京に5店舗を展開している。職人の作業に合わせて工程を説明してくれた中尾弘基さんは婿養子として入社。「実家も自営業をしていたので、絶対サラリーマンになろうと思っていたのですが」。職人の育成から店舗運営まで、工場と都市部を駆け回った7年が弘基さんを家業に染め抜いていた。

株式会社ナカニ 中尾弘基さん

「産地問屋が仕切っている業界で、うちは晒しをされた生地が入ってきて染めるところまでの委託加工を受けています。職人は1日に何百回と同じ作業を繰り返すけれど工賃は安く、これでは注染を続けていくことはできない。そもそも注染が世の中に知られていない。“注染”のことを知ってもらおうと社長が発案したのが“にじゆら”の手ぬぐいです。販売先がなかったからお店も作りました。手ぬぐいは“お配り物”とされてきたので、お金を出して買う商品ではなかったのです」。

 

自社ブランドの直営店を持つなんて、ひらく織メンバーから見ればすでに成功者に見えるかもしれない。けれどスタートした当時の状況も、階段を駆け上がっている現在の状況も、遠く離れた世界の話ではない。今では委託加工の割合は全体の半分以下になっているが、それも大切な仕事だという。「“にじゆら”の製品は型が細かかったり、にじみがあったりと若手には難しくて1日に染められる数が落ちます。全て手作業のためベテランと若手では生産量は倍ほど違うし、工場の生産量にも直結する。委託加工のシンプルな柄で修行しながら、技術を習得するには難しい柄にも挑戦しないといけない」。

この5年で倍の40名になったというスタッフのうち、約半分が工場で生産に当たる。50年を越すベテランの職人と新卒入社のデザイナー、若手職人が一つの建物の中で働いていることが“にじゆら”の特徴でもあり強みだ。デザイナーは職人の仕事と工程を理解し、ものづくりを実感しながら意匠が描ける。デザインと生産現場が繋がっていることで、クライアントからの注文にもスピーディーな対応が可能。3DCADによる型紙製作は年間2〜300柄にもなるという。

型に置いたり、土手を作ったりする「布海苔(ふのり)」は海藻からできているため、工場には磯の香りが広がっていた。毎朝、粉状の布海苔に土と水と薬品を加えて練り上げる。毎日約3000枚の手ぬぐいを染める。3000枚に糊を置く。延々と重ねられてきた注染の手仕事。「にじゆら」のにじみはいくつもの境界線をやわらかく通り抜け、届けるべきところにその想いを届けていた。

 

記事 原田美帆 / 写真 松本潤也

株式会社ナカニ

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